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島の図書委員 小室さんの本のオススメ③「言葉を離れる」横尾忠則

海士町中央図書館では、図書館の運営をサポートしてくれる住民の方を募り、「島の図書委員会」を開催しています。

委員の一人である小室さんによる本の紹介、今回で3回目となります。

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横尾忠則さんのエッセイ『言葉を離れる』。この本は広く皆さんにおすすめできません。おすすめは出来ませんが、私は面白く読みました。言葉を離れるというタイトルながら、言葉に対してとても真摯で謙虚で、最初から最後まで大切にしているのが文章から伝わります。

では何故広くおすすめ出来ないのか。それはP193の8行目から約2ページ少々続く映画の話。これがこの本のハイライトです。もし図書館でこの本を見つけたらこの2ページだけ開いてみてほしい。もうすごいです。横尾さん自身が撮りたい映画を頭の中で妄想するというシーンなのですが、???!!!です。

私のイメージで書くとすると、横尾さんが生涯で見た映画をシュレッダーで裁断して、もうその場面の言葉は聞けない、その印象的な場面の色の断片しかわからない。そんなイメージを繋げて映像にする。そんな妄想を文章にした2ページちょっと。

とてもエキサイティングで体温が上気している熱がこちらにも伝わってくるようです。理解しようというのではなくて、パワフルな創造の熱気を感じたい。そんな読書を求めている人には合うかもしれません。

光

全体を俯瞰して思うのは、やはり言葉です。言葉は何かを理解するのにとても便利です。言葉になっていないものは、理解しているのか怪しくなってくるほどです。けれど、言葉になった瞬間に見えていた周辺の映像が抜け落ちて、理解がシンプルになってしまうということもよく経験することだと思います。意外と核心の部分よりも周辺の抜け落ちた部分が大事だったということもありそうです。

この本ではそれを「アンファンテリスム(子供っぽさみたいな意味)」という語で繰り返し語っているのですが、(誤訳を恐れずに書くとすると)横尾さん自身はこの「言葉との距離」について、意識とかどうでもいいから、面白そう!って今この瞬間、頭をよぎったことをやったらと。そんな肉体的な体験をして、浮かび上がってきた感覚をさらに肉体的な行為である絵を描いたりするんだよと。

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ただし本を読まないのかと思ったら、平均して一日一時間は読まれるようで、エッセイや小説を書いたり、言葉との距離は[離れる―近づく]のまさに反復運動。それは対象をよく見つめ、とらえたいという願いからきているのかなと。これは想像です。

今のコロナ禍にあって人との距離ということで「距離」という言葉を目にすることも多いと思います。人と会って世間話をしたり、一緒にご飯を食べたり横尾さんが言うところの肉体的な体験をすることが貴重なものになっている今、自分の感性を閉じる方向ではなく、言葉と離れたり、あるいは近づいたり。散歩しながら「この木漏れ日きれいだな~」とか思ったり、面白いことをたくさんしたいなと思います。

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海士町中央図書館
島の図書委員 小室勇樹

「言葉を離れる」 横尾忠則 著

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