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「みんなで創る地域の未来」海士町・島まるごと図書館構想とは?

この記事は、日本ファイリング株式会社さんの広報誌『Better Strage』(Vol.220、2021年1月発行)の中で「みんなで創る地域の未来~山陰地方の図書館から~ 海士町・島まるごと図書館構想」という特集として掲載していただいた文章をそのまま掲載しています。

図書館のない島のユニークな構想

海士町は島根県の沖合60キロに浮かぶ隠岐諸島のうち、2番目に小さな人口2200名の島である。高齢化率40%を超える課題先進地だが、革新的なチャレンジを重ね現在はまちづくりの分野で注目を浴びるまでになった。活性化の流れは2005年、財政難となり存続の危機に追い込まれた年に始まる。行財政改革・産業振興・人づくりに重点をおいた施策が次々と打ち出されるなか、2007年に島まるごと図書館構想が立ち上がった。

島まるごと図書館構想とは学校・港・病院など人が集まる既存の施設に図書スポットを設置し、司書がつなげることで島全体を一つの図書館とする構想である。当時、島内には小さな書店と中央公民館に図書コーナーがあるのみで、離島のため近隣の図書館を利用することもできず、文化・教育・情報面で本土と大きな格差があった。住民も行政もその状況を問題視することはなかったが、町の「人間力溢れる人づくり」の重点施策に「読書活動」が位置づけられ、予算も図書館もない状況でいかに読書環境を整え、本を届けるかという課題に対し考えだされた。

まさにゼロからのスタートとなる構想では、まず2名の司書が任用され、公民館図書室のリニューアル、小~高校の学校図書館整備、分館の立ち上げに奔走する日々が始まった。

図書館から広がる交流の輪

2010年、中央公民館に図書館部分を増築し、広さ200㎡、収容力2万冊の「海士町中央図書館」が開館した。小規模ながら木造で温もりのある館内、開館前に島民の皆様と作った隠岐木材の書架、窓から見える美しい田んぼ風景…と、海士らしい時間と空間を体感できる図書館が誕生した。

外観

図書館を運営する上で大切にしたのは、図書館が町や住民や社会に対し出来ることは何か、暮らしの満足度を高め、この町に住み続けるためにどんなサービスが必要かという視点であった。

図書館文化がなかった町で、地域に根差し住民に役立つ図書館を目指すなかで、最初に取り組んだのが館内でコーヒーを飲める環境づくりであった。「本のあるみんなの居場所」としてリラックスして過ごしてもらいたいと、セルフのカフェコーナーを設置した。そのほか子どもへのオモチャの貸出や工作コーナーの設置、Wi-Fi環境整備及びパソコン持ち込みの方への電源提供、夜間開館&カフェ、本・服のリサイクルコーナー設置など、生活のなかの小さな「あったらいいな」を図書館に取り入れることで、多面性のある、暮らしと地続きにある施設を整備していった。

海士町図書館内

図書館活動においても、図書館単独ではなく住民や事業所から持ち込まれた企画を共催で行うという形態が大半を占めている。たとえば文化的娯楽が少ないなら自分たちで作ろうと映画の自主上映会、ピアノライブ、写真展、交流イベントなど暮らしを楽しむイベントが行われてきた。近年では町づくりに関する対話型イベントが多く、教育や新たな建設事業について担当者を迎え、意見交換するといった住民参画型の活動が広がっている。

その流れで2020年に始まったサービスがシードライブラリー・種の貸出である。これは、持続可能な農業を地域に広めたいという農業実践者の「住民に信頼され影響力のある図書館と手を組み、チャレンジしたい」との思いを受け実現した。サービスの利用方法はファイルを見て種を選び、数ヵ月後に種が採れたら返却するというものだ。

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種の貸出&関連図書コーナー

野菜の育て方を教えて欲しい人、畑を借りたい人のために実践者や役場担当者の連絡先情報もあり、人と人を繋げ、気軽に実践できる窓口にもなっている。その後、実践者を集めて畑の情報交換会が開催され、今後も定期的に集まることになった。

畑の情報交換会

「畑のネタ情報交換会」で海士の種蒔き暦を作成した。

いろいろなアイデアや能力をもっていても、個人で一歩を踏み出すのは勇気がいるものだ。個人の思いを図書館が受け止め、協力できることを見極め、協働やチャレンジの場を提供することで個人の思いのつなぎ手となり、住民自治の力を高めていく。この働きは場としての図書館がもつ重要な役割といえるのではないだろうか。

これからも参画といった大げさなものでなく、気軽に話し合えるパートナーとして、住民と楽しみながら新たなチャレンジをしていきたい。

増え続ける小さな拠点

島まるごと図書館を支える地域分館は、1年目は地区公民館4つ、港、保健福祉センターひまわりの計6館だった。こちらからお願いして書架を設置させてもらい、本の管理は全て図書館が行っていた。分館といっても50~1,200冊程度の小規模な無人式スペースだが、高齢者には健康や運動の本、港には地域資料や文庫本というように施設の特性や利用者層に合った本をきめ細かに選定し並べている。

港ブランチ海士

港には船で出かける人向けに文庫本などが置かれている。

新分館の開拓に悩んでいた頃、町の各プロジェクトが本格化し、各種施設の建設ラッシュとなり、それらの施設から分館設置の要望が挙がるようになった。設置目的は、地域住民の集う場にする、お客様へのサービス向上、図書館との連携などが主なもので、ホテル・郷土資料館・診療所・塾など、町の活性化と共に分館も予想をはるかに超えて広がり、全体の貸出の約2割(1,600冊)を分館が占めるまでになった。

学習センター

公設民営の高校生向けの塾・隠岐國(おきのくに)学習センター。

本来は各施設が本を購入すべきとの考え方もあるが、分館事業は全島を挙げた読書推進や全域サービス実現の要と考え、積極的に分館数の拡大を図ってきた。分館はただ本を貸出すことに留まらず、他機関との連携強化や事業支援、島内外の方へのおもてなしや満足度アップといった多角的効果をもたらすのではないだろうか。管轄を越えた連携を容易にしたのは、本のもつ各分野との親和性の高さであり、2021年夏にはホテルからの声かけでホテル・ジオパーク・図書館が融合した大規模施設がオープン予定である。

2019年には初の地域住民による家庭文庫型の分館が誕生した。家を住み開きし、地域活動の拠点にしたいとIターンしたばかりのご夫婦から申し出があり、開設に至った。文庫には図書館の本も一部並んでおり、文庫の本を本館で返却することもできる。文庫からは「図書館の分館として活動することで、それ以外の地域活動をする際にも信頼が得られやすい」との感想が聞かれた。分館が地域のプラットフォームとして、コミュニティを育む場になっていけばと思う。

分館は住民と図書館が日常のなかで出合う場であり、本を気軽に手にしてもらうことが第一の目的であったが、継続することで図書館や地域づくりを住民・各機関と協働するという新たな意義が見えてきた。今後も柔軟な姿勢で分館運営を進めていきたい。

読書好きの子どもを育てるために

この構想では学校図書館を児童・青少年サービスの中核施設と位置付け、早くから司書を配置(兼務)し整備を進めてきた。学校図書館は子供たちにとって一番身近で利用しやすい図書館であり、すべての子どもに豊かな図書館体験を提供できる大切な場所である。また情報や社会体験に制限がつきまとう離島では、世界につながる窓として、多様な価値観に触れ、子どもたちの目を開かせる役目もある。図書館には教育的要素だけでなく、子どもの豊かで教養に満ちた育ち全般を支える役割があり、これは町の教育指針「人間力溢れる人づくり」を下支えするものでもある。

始めはどの学校図書館も奥まった場所にあり閑散としていたが、校舎改修に併せ中心部に移動したことで、明るく居心地の良い図書館となり子どもたちで賑わうようになった。読書・学習・情報センターの機能整備、小・中・高の図書部会による授業実践や読書推進イベント等の取り組みにより、少しずつ成果が見られるようになった。活字への苦手意識を持つ子どもが大多数を占めていたが、今では読書習慣が定着し読書量も10倍以上に増加した。図書館の基本的機能を理解し、授業以外で自ら活用する姿が見られるなど図書館のある生活が当たり前のものとなっている。

公共図書館職員が学校を兼務する形態には難しさもあるが、小規模校であれば両立は可能でメリットも多い。小・中学校すべての学校司書が毎日顔を合わせるので相互貸借がスムーズで資料の活用度が高く、また各学校の実践や課題を共有できるため、学校間格差を抑え、一定の水準を保つことが可能となっている。

町の司書が学校勤務することで、町の取り組みや想いを伝え、公共と学校図書館をつなぎ、一体となって子どもが読書に取り組む基盤ができつつある。

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海士町立福井小学校の図書館

小さな町の図書館にできること

町のキャッチコピー「ないものはない」には、「便利なものはなくてよい」「大切なものはすべてある」という思いが込められている。海士町はあるものを見つめ、必要なものは自分たちで生み出すという価値観を大事にしている町である。

不便で課題の多いこの島では、みんなが地域の担い手として行動を起こすことが持続可能性のカギとなる。「文化は未来への投資」と言われるが、図書館を通じて豊かさの新たなモノサシを共創していければと思う。

図書館利用者からの感想に「リラックスできる心地よい場所」「エネルギーが湧き出る場所」、高校生からの「この空間にいる幸せ。大切にしたい場所」などがあり、図書館が心の拠り所として存在することを教えてもらった。貸出冊数といった見える成果だけでなく、目に見えない役割も多く、それらにもしっかり目を向けていきたいと思う。文化・芸術・娯楽施設の乏しい地方・僻地における図書館の意義は計り知れないほど大きいのではないだろうか。

限られた環境条件のなか、あるものを活かし住民と積み上げるボトムアップ型の図書館づくりは、この土地にしかないオリジナルな図書館を育む道へと導いてくれた。今後も、小さな図書館だからできること、「ない」からこそ辿れるプロセスや生み出せるものを大切に、新しい図書館のカタチをみんなで創っていきたい。

文責:海士町中図書館 磯谷奈緒子


出典:『Better Storage』Vol.220 特集「みんなで創る地域の未来~山陰地方の図書館から~ 海士町(島根県隠岐島)・島まるごと図書館構想」(2021年1月1日発行)

発行 日本ファイリング株式会社





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